工事代金の未払いは「契約書なし」でも回収できる?弁護士がわかりやすく解説

工事代金を払ってもらえない建設・下請会社の経営者の方へ。契約書を交わさないまま工事を請け、代金が未払いのままになっていませんか?
この記事でわかることは3つです。①契約書がなくても回収できるのか、②回収の流れ、③ほかにどんな打ち手があるのか。契約書がなくても工事請負契約は成立し得るため、回収できる可能性はあります。
当事務所(アクセルサーブ法律事務所)は建設業界の法務に特化しており、工事代金の未払金の回収についても豊富なサポート実績を有しています。
▼この記事のポイント
- 工事代金の未払いは、契約書なしでも回収できる可能性があります。書面は請負契約の成立要件ではないためです(民法632条)。
- ただし、契約が成立していたことと合意した金額を、自社の側で立証する必要があります。契約書がある場合よりハードルは上がります。
- 見積書・発注書・請書・請求書・メール・LINEのやり取り・施工写真・出来高資料を集めて積み上げるのが第一歩です。
- 工事代金債権の消滅時効は5年になることが多く(民法166条1項)、時間との勝負になることもあるため、早めに弁護士へご相談ください。

弁護士 小澤 裕也
弁護士 小澤 裕也
アクセルサーブ法律事務所
代表弁護士
愛知県立一宮高校卒業
立教大学法学部卒業
明治大学法科大学院修了
工事代金の未払いは契約書なしでも回収できる?
未払いとなった工事代金は、契約書がなくても回収できる可能性があります。とはいえ、回収のハードルは契約書がある場合と比較して高くなりやすいでしょう。
民法上は、口頭やメールでも工事請負契約が成立し得る
契約書がないからといって、工事請負契約が成立しないわけではありません。書面で契約を結ぶことは、請負契約の成立要件ではないためです。
請負契約は、一方が仕事の完成を約束し、相手方がその仕事の結果に報酬を支払うと約束することで成立します(民法632条)。つまり、口頭やメール、FAXなどで発注・受注の合意ができていれば、民法上は工事請負契約が成立し得ます。
ただし、これは民法上の契約成立の話です。建設工事の請負契約では、建設業法上、法定事項(=法律が定める記載項目)を書いた書面を作り、署名または記名押印をして互いに交付することが求められます。
もっとも、相手方が支払いを拒むなら、こちらが「工事請負契約は成立している」と証明しなければなりません。
契約が成立し、報酬の支払時期が到来していれば、注文者には工事代金の支払義務がある
契約が成立し、あらかじめ契約で定められた報酬の支払時期が来ていれば、注文者には工事代金を払う義務があります(支払時期の合意がなければ、目的物の引渡しと同時に支払うのが原則になります。)。回収するには、次の点を立証する必要があります。
- 工事請負契約が成立していること
- 合意された工事内容・報酬額
- 仕事の完成や引渡し
- 支払時期の到来
契約書があれば報酬額も書かれていることが多く、この証明は容易でしょう。しかし、契約書がなくても諦める必要はありません。見積書や発注書、請書などが残っていることが多いためです。
メールやLINEのやり取りに金額が書かれていることもあります。これらを積み重ねて、工事代金の合意があったことを立証していきます。
報酬額の合意を直接示す資料が乏しい場合でも、施工の依頼、施工内容、完成・引渡し、相当な報酬額などを示す資料を積み重ねれば、報酬請求が認められる余地があります。
さらに、施工業者が商人にあたり、その営業の範囲内で他人のために工事を行ったといえる場合には、商法512条に基づき、相当な報酬を請求できる可能性もあります。
- 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
【資料がゼロだと厳しい】
発注や施工の事実、相当額を裏付ける資料がまったくない場合には、回収は困難です。
工事請負契約について契約書を交わすべき理由
これから工事を請けるのであれば、契約書は取り交わすべきです。理由は次の2つです。
- 法定事項を記載した契約書面等の相互交付は建設業法上の義務だから
- 工事請負契約が成立している旨を立証するハードルが高くなるから
法定事項を記載した契約書面等の相互交付は建設業法上の義務だから
1つ目は、契約書を取り交わすことが建設業法上の義務だからです。契約書のないまま工事を受発注しているケースは、少なくありません。
建設工事の請負契約では、「工事内容」や「請負代金の額」など建設業法19条1項が定める事項を書面に記載し、署名または記名押印をして互いに交付することが義務付けられています。
注文書・請書方式などでも、法定事項の記載や相互交付といった要件を満たせば、同条に対応できる場合があります。所定の要件を満たす場合には、電磁的措置による契約締結も可能です。
【処分のリスク】
この義務に違反しても、直接的な罰則はありません。しかし、契約書を取り交わしていない場合、違反の内容や程度によっては、国土交通大臣や都道府県知事からの指示処分や営業停止処分などの対象となる可能性があります(同法28条)。
工事請負契約が成立している旨を立証するハードルが高くなるから
2つ目は、契約書がないと、工事代金の未払いなどのトラブルが起きた際に立証のハードルが高くなるからです。
契約書があれば、「工事請負契約が成立していたこと」や「合意した金額」を示す有力な証拠になります。ただし、追加工事・変更工事の有無、契約書の真正、署名押印者の権限、支払条件などが別途争われることもあります。
これに対して契約書がなければ、メールやFAX、見積書などの資料をかき集め、未払金の回収に必要となる事項を立証していかなければなりません。工事請負契約書や注文書・請書などの契約書面は、適切に作成・保存しておきましょう。
なお、アクセルサーブ法律事務所は建設業界の法務に特化しており、工事請負契約書の作成についてのサポートも可能です。「必要性はわかるが、どう作ればよいかわからない」とお困りの際は、お気軽にご相談ください。


契約書なしの場合に工事代金の未払金を回収する流れ
契約書がない場合、未払いとなった工事代金は次の流れで回収していくのが一般的です。
- 工事に関する資料を集める
- 弁護士に相談する
- 弁護士から未払金の支払いを請求する
- 支払督促を申し立てる
- 訴訟で解決をはかる
- 強制執行をする
1.工事に関する資料を集める
まずは、関係しそうな資料を集めます。契約の成立や金額の合意を示す資料を、こちらから提示しなければならないためです。役に立ちそうかどうかは弁護士が確認するので、選り分ける必要はありません。
初回相談の時点で資料がすべて揃っていなくても構いません。資料集めに時間をかけ過ぎず、ある程度揃った時点で次に進みましょう。未払いとなっている事情によっては、「時間との勝負」となる可能性もあるためです。
弁護士に相談する
ある程度資料が集まったら、弁護士に相談します。相談先には、建設業界の法務に強い弁護士を選ぶとよいでしょう。相談は予約制であることが多いため、まずは電話やコンタクトフォームから予約をとります。
初回相談だけで問題がすべて解決するケースは、さほど多くありません。初回は、解決の方向性を定めることと、弁護士の専門性や自社との相性を見極めることに注力しましょう。
弁護士から未払金の支払いを請求する
正式に依頼すると、弁護士から相手方に未払いの工事代金を支払うよう請求します。この請求は、内容証明郵便で行うことが多いでしょう。内容証明郵便とは、誰から誰にどのような内容の郵便が送られたのかを、謄本によって日本郵便株式会社が証明するサービスです。
配達証明を付ければ、配達された事実も証明しやすくなります。ただし、記載された債権の存在や金額が真実であることまでを証明するものではありません。
また、弁護士から内容証明郵便を送ることは、「この時点で対応しなければ裁判上での請求に移行する」というメッセージともなり、相手方にプレッシャーを与える効果も期待できます。ここで相手方が支払いに応じれば、事案は解決です。
支払督促を申し立てる
内容証明郵便を送っても相手方が支払わない場合は、支払督促の申立てを検討します。支払督促とは、債権者の申立てに基づき、裁判所書記官が金銭等の支払いを命じる手続です。
書類審査のみで進むため迅速です。ただし、支払督促が送達されただけで、直ちに確定判決と同一の効力が生じるわけではありません。その後は次の順に進みます。
- 債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てない場合、債権者は仮執行宣言の申立てができます。
- 仮執行宣言付支払督促が送達されると、これに基づいて強制執行の申立てが可能となります。
- 仮執行宣言付支払督促についても所定期間内に異議がなければ、確定判決と同一の効力を有します。
参照元:「お金を払ってもらえない」とお困りのかたへ、簡易裁判所の「支払督促」手続きをご存じですか?(政府広報オンライン)
【異議が出れば通常訴訟へ】
相手方から異議が申し立てられると、通常訴訟に移行します。工事代金の支払い義務(=債務)の有無や額に争いがあるなら、支払督促ではなく、はじめから通常訴訟を起こすことを検討すべきでしょう。
訴訟で解決をはかる
債務の有無や額に争いがある場合や、支払督促に異議を申し立てられた場合は、通常訴訟の申立てを検討します。話し合いで解決できる余地があるなら、訴訟に先立って民事調停(=調停委員が当事者から事情を聴き、意見を調整して合意成立を目指す手続き)を申し立てる場合もあります。
訴訟では、裁判所が諸般の事情を考慮して判決を下します。判決内容に不服がある場合は、判決書(法律が変わり具体的には「電子判決書」あるいは「電子調書」が想定されています。)の送達から2週間以内に限り控訴が可能です。いずれの当事者も控訴せずにこの期間が過ぎると判決が確定し、両当事者にその判決に従う義務が生じます。
強制執行をする
仮執行宣言付支払督促や判決など、強制執行の根拠となる債務名義を取得しても、相手方が任意に支払わない場合には、裁判所に強制執行を申し立て、預貯金、売掛金、不動産などの財産を差し押さえることを検討します。
もっとも、差押可能な財産を把握できない場合や、他の債権者・担保権者がいる場合には、全額回収できるとは限りません。相手方の資産状況を早期に把握することが重要です。


工事代金が未払いとなった場合に検討したいその他の対処法
回収手続き以外にも、知っておきたい対処法が2つあります。
- 特定建設業者の「立替払制度」を利用する
- 建物の引渡しを拒む
最適な対処法は、状況や未払いとなった事情によって異なります。無理に自社だけで判断せず、早めに弁護士に相談したうえで検討することをおすすめします。
お困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。当事務所は建設業界の法務に特化しており、工事代金が未払いとなったケースについても豊富な解決実績を有しています。
特定建設業者の「立替払制度」を利用する
自社が孫請け以下で、直接の発注者が工事代金を払ってくれない場合には、特定建設業者の「立替払制度」の活用が検討できます。工事は「元請企業と下請企業」の2階層ではなく、孫請企業を含む複数階層であることも少なくないためです。
これは、特定建設業者が発注者から直接請け負った工事について、当該工事に関与する他の建設業者が労働者への賃金支払を遅滞した場合や、工事の施工に関して他人に損害を加えた場合に、行政庁が必要と認めるときは、特定建設業者に対し、立替払その他の適切な措置を講ずるよう勧告できる制度です(建設業法41条3項)。
あなたの現場で言うと、下請企業が、さらなる下請けである二次下請企業や孫請企業に工事代金を払わない場面などが問題となります。孫請企業としては、元請企業が特定建設業者かを確認したうえで、元請企業やその許可行政庁に相談・申入れを行うことも選択肢となります。
この制度を活用するには、次の要件を満たす必要があります。
- 元請企業が特定建設業者であること
- 工事代金を支払わない企業が、その元請企業が元請けとして携わっている工事の全部または一部を施工していること
- 元請企業の許可行政庁(大臣許可であれば国土交通大臣、知事許可であればその都道府県知事)が必要であると認めること
【勧告制度である点に注意】
これはあくまでも行政庁による勧告制度であり、下請業者が元請業者に対して直接立替払いを請求できる制度ではありません。「必要であると認めること」という要件もあるため、許可行政庁に申し入れても、必ず勧告してもらえるとは限りません。資金繰りに窮した場合の選択肢の1つとして知っておきましょう。
なお、特定建設業者とは、特定建設業の許可を受けた建設業者をいいます。この許可は、発注者から直接請け負った1件の建設工事について、下請契約の請負代金の総額が5,000万円以上、建築一式工事の場合は8,000万円以上となる下請契約を締結して施工しようとする場合に必要となります。
建物の引渡しを拒む
未払いとなっている工事の目的物の引渡しが未了であれば、その目的物(施工した建物など)の引渡しを拒むことも検討すべきでしょう。一定の条件を満たした建設会社など商人同士の取引には、商事留置権があるためです。
商事留置権とは、商人間において、その双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にある場合に、債権者が、その債権の弁済を受けるまで、債務者との商行為によって自己の占有に属した債務者所有の物または有価証券を留置できる権利です(商法521条)。
工事代金が未払いで、建物など目的物の引渡しが未了の場合、留置権を主張できる可能性があります。ただし、工事代金未払いであれば当然に留置権を主張できる、というものではなく、上で「一定の条件を満たした」と述べた通り、その範囲は限定されています。そのため、次のような場合には認められないことがあります。
- 相手方が商人でない場合
- 目的物が債務者所有といえるか争いがある場合
- すでに占有を失っている場合
- 契約で別段の定めがある場合
建物工事において留置権が認められるかどうかは個別事情によって異なります。実際に引渡しを拒む前に、必ず弁護士に相談してください。
工事代金の未払いに関するトラブルはアクセルサーブ法律事務所にお任せください
工事代金の未払いでお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。当事務所の主な特長は、次の3つです。
- 建設・不動産業界に特化している
- 実践的なアドバイスを得意としている
- トラブルを防ぐ「予防法務」に力を入れている
建設・不動産業界に特化している
アクセルサーブ法律事務所は、建設・不動産業界に特化しています。工事代金の未払金の回収についても豊富なサポート実績を有しているため、状況に応じた的確な対応が可能です。
実践的なアドバイスを得意としている
法的な正確さはもちろん、実際の回収可能性、相手方との関係、費用対効果、今後の取引への影響を踏まえた助言が重要です。当事務所は、建設業界の実情を踏まえ、状況に応じた現実的な解決策をご提案します。
トラブルを防ぐ「予防法務」に力を入れている
解決に至ったとしても、トラブルには費用や時間がかかります。工事代金が未払いとなれば相手方との信頼関係も揺らぎ、それ自体がデメリットです。適切な対策で防げるトラブルは、少なくありません。当事務所は、トラブル発生後の対応だけでなく、未然に防ぐ「予防法務」にも力を入れています。
工事代金の未払いに関するよくある質問
最後に、工事代金の未払いに関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
契約書なしの場合の工事代金の未払金回収を弁護士に依頼するメリットは?
主なメリットは、状況に応じた的確な回収方法を選べることです。相手方とのやり取りを弁護士に任せられること、支払督促や訴訟などの手続きを任せられることも、大きなメリットでしょう。
工事代金の未払金の時効は?
工事代金債権の消滅時効(=請求できる期限)は、原則として、次のいずれか早い方の経過により完成します(民法166条1項)。
- 債権者が権利を行使できることを知った時から5年
- 権利を行使できる時から10年
実務上は、支払期限や引渡し時期などから5年が問題となるケースが多くみられます。
【2020年4月1日より前の債権は要確認】
2020年4月1日より前に発生した債権については、改正前民法が適用される可能性があるため、個別の確認が必要です。万が一にも時効にかかってしまわないよう、工事代金が未払いとなったら、できるだけ早く対応しましょう。
まとめ
契約書がないからといって、工事請負契約が成立しないわけではありません。ただし未払金を回収するには、契約が成立していたことと、合意した工事代金の立証が必要です。契約書がなければ、このハードルは高くなります。
工事代金が未払いとなったら、まずは契約書、注文書、請書、見積書、請求書、メール・LINEのやり取り、施工写真、出来高資料など、手元にある資料を可能な範囲で整理し、早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。
アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界の法務に特化しており、工事代金が未払いとなった場合の回収についても豊富な解決実績を有しています。契約書がないまま行った工事について代金が未払いとなりお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までお早めにご相談ください。




