建設現場で「労災事故」が発生した際の対応は?建設業者向けに弁護士がわかりやすく解説

工事現場は危険と隣り合わせであり、いくら注意していても、予期せぬ事故が発生してしまうことがあります。
では、建設現場で労災事故が発生したら、企業はどのように対応すれば良いのでしょうか?また、建設現場で労災事故が起きた場合、その責任は誰にあるのでしょうか?今回は、建設現場での労災事故の概要や労災事故が起きた場合の対応、労災事故の責任の所在などについて、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(アクセルサーブ法律事務所)は建設・不動産業界に特化しており、建設現場で起きた労災事故についてもご相談いただけます。建設現場での労災事故について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
建設現場での労災事故の傾向
はじめに、建設現場での労災事故の傾向を紹介します。
厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課が2025年5月に公表した「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」によると、2024年に全産業で起きた死亡災害は746件であり、このうち建設業が232件(約31%)と突出しています。参考までに、死亡災害が次に多かったのは製造業で、142件(約19%)でした。
一方で、怪我をした件数も含めた2024年の業種別死傷災害は全産業で135,718件であり、このうち建設業で起きた事故は13,849件(約10%)でした。死傷災害の件数は、建設業よりも製造業(26,676件)や商業(22,039件)、保健衛生業(18,867件)の方が多くなっており、建設業の件数が特段多いわけではありません。
建設業では怪我などを含む死傷災害の件数こそ他の産業と比較してさほど高くはない一方で、死亡に至る重大な事故が多く報告されていることがわかります。
建設現場での労災事故の特徴
建設現場での労災事故には、どのような特徴があるのでしょうか?ここでは、主な特徴を2つ解説します。
- 重大な事故につながりやすい
- 責任の所在がわかりづらい
重大な事故につながりやすい
1つ目の特徴は、重大な事故につながりやすいことです。
先ほど紹介したように、建設事故では怪我全体の件数は他の業種と比較してさほど高くない一方で、死亡に至る事故が突出して高くなっています。また、同じく厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課の「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」によると、2024年における建設業での死亡事故の原因は、多いものから順に次のとおりでした。
- 墜落・転落(77件)
- 崩壊・倒壊(30件)
- はさまれ・巻き込まれ(25件)
- 激突され(21件)
- 交通事故(道路)(18件)
- 飛来・落下(11件)
- 高温・低温物との接触(11件)
建設現場は危険と隣り合わせであり、ひとたび事故が発生すると重大な結果に至りやすいといえます。
責任の所在がわかりづらい
2つ目の特徴は、責任の所在がわかりづらいことです。
建設現場では、複数の企業や個人事業主が関わることが少なくありません。そのため、たとえば工事現場で下請企業の従業員に労災事故が起きた場合、その責任が元請企業にあるのか下請企業にあるのか即座に判断できず、対応に遅れが出る可能性があります。
建設現場での労災事故は誰の責任?
先ほど解説したように、建設現場での労災事故は責任の所在がわかりづらい傾向にあります。では、建設現場での労災事故の責任は、誰にあるのでしょうか?基本的な考え方を解説します。
実際に建設現場で労災事故が起き、責任の所在などでお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。状況に応じて、考えられる責任の所在や相談者である企業が採るべき対応についてアドバイスします。
原則:労災事故に遭った従業員の雇用主である企業
建設現場で労災事故が起きた場合、死傷した従業員に対して責任を負うのは、原則としてその従業員の雇用主である企業です。なぜなら、企業は自社が雇用する労働者の生命、身体等の安全を確保する「安全配慮義務」を負っているためです(労働契約法5条)。
企業が当該労災事故が発生する危険を予見し得、かつ、相当な措置を講じていれば結果が回避できたのに、それを怠った、といえる場合には、安全配慮義務を果たせなかったということができ、当該企業が債務不履行責任を負います。
例外:指揮命令関係があれば、元請企業に責任を追及できることも
建設現場では、事実上、現場監督など元請企業の指揮命令下で下請企業の従業員が働くこともあるでしょう。元請企業と死傷した従業員との間に指揮命令関係などがあったと判断されれば、例外的に元請企業が労災事故の責任を負うこともあります。
元請企業が労災事故の責任を問われる場合、その主な根拠となり得るのは、「安全配慮義務」と「使用者責任」です。それぞれの概要は次のとおりです。
安全配慮義務
先ほど解説したように、使用者は、使用する労働者に対して安全配慮義務を負います(同5条)。元請企業は、下請企業の従業員を直接雇用しているわけではありません。しかし、建設現場において元請企業とその下請企業の従業員との間に指揮命令関係があったと判断されると、例外的に元請企業が安全配慮義務を負うことがあります。
ただし、工事現場において元請企業が下請企業の従業員に対して常に安全配慮義務を負うわけではなく、現場の作業環境や指揮命令系統などに応じて個別に判断されます。
使用者責任
建設現場での労災事故が、元請企業の従業員の過失によって引き起こされる場合もあるでしょう。たとえば、次の場合などです。
- 現場監督である元請企業の従業員Xが出した指示が誤っており、これが原因で労災事故が起きた
- 元請企業の従業員Xが現場でふざけており、これに巻き込まれる形で労災事故が起きた
この場合には、労災事故の直接の原因となった元請企業の従業員Xが、労災事故について責任を負う可能性があります。そして、その従業員の雇用主である元請企業は、従業員Xと連帯して損害賠償責任を負う「使用者責任」を負っているため、これを根拠として責任が追及される可能性があります(民法715条)。
建設現場での労災事故の認定要件
極端な例ではあるものの、たとえ建設現場で起きた事故であっても、「休日に勝手に工事現場に忍び込んで遊んでいたところ、転倒した怪我をした」などの場合には、労災事故とはいえないでしょう。建設現場での事故が労災事故に該当するためには、原則として、次の2つの要件を満たす必要があると考えられます。
- 業務遂行性があること
- 業務起因性があること
業務遂行性があること
建設現場での事故が労災として認定されるためには、「業務遂行性」が必要です。これは、事故発生当時、その労働者が労働契約に基づいて事業主の管理下にあったことを求める要件です。
出勤日に建設現場で事故に遭った場合は、原則として業務遂行性があったといえるでしょう。一方で、先ほど紹介した「休日に勝手に工事現場に忍び込んで遊んでいたところ、転倒して怪我をした」ような場合には事業主の管理下にあったとはいえないため、業務遂行性がないと判断される可能性が高くなります。
業務起因性があること
建設現場での事故が労災として認定されるためには「業務起因性」が必要です。これは、発生した事故が、業務に起因して生じたものであることを求める要件です。
建設現場で作業に従事していた際に事故に遭ったのであれば、原則として業務起因性があったと判断されるでしょう。一方で、「休日に勝手に工事現場に忍び込んで遊んでいたところ、転倒して怪我をした」場合には業務起因性はなく、労災事故ではないと判断される可能性が高いでしょう。
とはいえ、実際には労災事故であるか否か判断に迷うことも多いと思います。お困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。ご相談いただくことで、事故について自社が行うべき対応を把握しやすくなります。
工事現場での労災事故の損害賠償はどのように算定される?
工事現場で労災事故が起きた場合、その従業員本人や遺族から損害賠償請求がされる可能性があります。損害賠償責任を負うのは原則としてその雇用主である企業であるものの、先ほど解説したように、場合によっては元請企業やその従業員が損害賠償責任を負うこともあります。
工事現場での労災事故が起きた場合、その賠償金は次の額などのうち、そのケースにおいて生じたものを積み上げて算定することが一般的です。
- 積極損害
- 逸失利益
- 休業損害
- 慰謝料
なお、建設現場で労災事故が起き、「自社が責任を負うべきか?」「損害賠償の適正額はどの程度なのか?」などお悩みの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
積極損害
積極損害とは、労災事故に遭ったことで実際に必要となる費用です。たとえば、入院・手術の費用や通院に要した交通費などがこれに該当します。
逸失利益
逸失利益とは、労災事故に遭った従業員が死亡したり障害が残ったりした場合における、労災事故がなければ将来得られたはずの利益(収入)です。
逸失利益は、次の式で算定することが一般的です。
- 逸失利益額=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
一方で、本人が死亡した場合の逸失利益額は、次の式で算定されます。
- 逸失利益額=基礎収入額×就労可能年数に対応するライプニッツ係数×(1-生活費控除率)
生活費控除率が考慮されるのは、死亡により得られたはずの収益が得られなくなった一方で、その本人分の生活費がかからなくなったことによるものです。
なお、労災事故の場合、この逸失利益のうち一定額は労災保険から補償されます。ただし、労災保険の補償額では不十分であることも多いため、不足部分が生じる場合には、不足部分について雇用主である企業(一定の場合には、元請企業など)に対して請求されることとなります。
休業損害
休業損害とは、労災事故に遭った本人がその事故が原因で休業することになった期間について、本来得られたはずの収入分に相当する損害です。
建設現場での労災事故の場合には、労災保険から休業補償給付が支給されます。しかし、この休業補償給付は休業4日目以降分から支給され、休業3日目までは支給されません。また、その金額も給付基礎日額の8割(休業補償給付6割+休業特別支給金2割)相当額であり、全額が支給されるわけでもありません。
そのため、労災保険からの給付では不足する部分については、労災事故の責任のある事業者に対して請求されることとなります。
慰謝料
慰謝料とは、労災事故に遭った本人や遺族の精神的な苦痛を慰謝するために支払う金銭です。一般的に、労働者が死亡した場合や障害が残った場合など、事故の結果が重大である場合には慰謝料の金額も高くなります。
慰謝料は労災保険からは補償されないため、労災事故の責任のある事業者に対して請求されることとなります。
建設現場での労災事故が起きた際の初期対応
建設現場で労災事故が起きた場合、企業としてはまずはどのように対応すれば良いのでしょうか?ここでは、労災事故が起きた場合の初期対応を解説します。
- 労災事故の発生状況を確認する
- 労働基準監督署に労働災害を報告する
- 弁護士へ相談する
労災事故の発生状況を確認する
はじめに、労災事故の発生状況を確認します。
事故に遭った従業員を病院に搬送するなどしたら、できる限りそのままの状態の現場を写真に写すなど記録を残しましょう。正しい記録を残すことで、労基署や家族(遺族)に説明する際に、より正確な説明がしやすくなります。特に、重大な事故では警察などが現地に訪れることもあるため、この点からも現場の保存が重要といえます。
併せて、現場に居合わせた従業員から、できるだけ早期に状況の事故の状況をヒアリングします。事故発生から時間が経つと記憶が曖昧になりやすいため、早期の聞き取りがポイントです。
労働基準監督署に労働災害を報告する
建設現場で労災事故により労働者が死亡または休業した場合には、労働者死傷病報告などを、遅滞なく労働基準監督署長に提出しなければなりません。報告を怠ると、罰則が適用される可能性があります。
弁護士へ相談する
重大な労災事故が起きた場合には、早期に弁護士にご相談ください。弁護士に相談することで自社が負うべき責任が明確となるほか、死傷した従業員や遺族へのその後の対応方針を定めやすくなるためです。
建設現場で労災事故が起き、対応にお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までお早めにご相談ください。アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界に特化しており、建設現場で労災事故が起きた場合の対応についてもご相談いただけます。
建設現場での労災事故が起きた際に避けるべき対応
建設現場で労災事故が起きた場合に備え、「やってはいけない対応」についても理解しておきましょう。ここでは、避けるべき対応を2つ解説します。
- 建設現場での労災事故を隠す
- 事故の発生状況について虚偽の申告をする
建設現場での労災事故を隠す
建設現場で労災事故が起きた場合、労災事故を隠してはなりません。労災事故を隠そうとしても、労働者による内部告発や受診した病院からの通報、労働基準監督署による調査などで発覚する可能性は低くありません。
労災隠しをすると、罰則が適用される可能性があります。また、労災隠しが発覚して有罪となった場合、入札の指名停止処分を受ける可能性も高いでしょう。
事故の発生状況について虚偽の申告をする
建設現場で労災事故が起きた場合、事故の発生状況について虚偽の報告をしてはなりません。
建設現場で起きた労災事故では、元請企業の労災保険を使用するのが原則です。建設業では、建設現場を1つの事業体とみなし、元請企業が一括で現場労災に加入させる仕組みが採られているためです。
しかし、入札参加資格申請で必要な経営事項審査(経審)の点数が下がる事態を避けるため、元請企業が下請企業に対し、「下請企業側のヤードで怪我をしたことにして、下請企業の労災を使ってほしい」などと要請する場合もあります。
しかし、このような虚偽の申告をすると、刑事罰が適用される可能性があります。元請企業として虚偽の労災申告を要請すべきでないのはもちろん、下請企業としてもこのような要請には応じないよう注意しておきましょう。
建設現場で労災事故が生じた際に弁護士に相談する主なメリット
建設現場で労災事故が起きた場合、弁護士に相談することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、主なメリットを3つ解説します。
- 労災事故で自社が追うべき責任が明確となる
- 自社がとるべき具体的な対応が明確になる
- 適正な損害賠償額が把握できる
労災事故で自社が追うべき責任が明確となる
1つ目は、その労災事故で自社が負うべき責任が明確になることです。
先ほど解説したように、建設現場には複数の企業がかかわることが多いため、労災事故の責任の所在について判断に迷うことも多いでしょう。弁護士に相談することで、その労災事故について自社が負うべき責任が明確となります。
自社がとるべき具体的な対応が明確になる
2つ目は、自社がとるべき具体的な対応が明確になることです。
建設現場で労災事故が起きた場合には、状況に応じてさまざまな対応が必要となります。労基署への報告や警察への通報、事故に遭った従業員の家族(遺族)への謝罪と報告、施主への報告、マスコミ対応などです。
しかし、具体的な状況では自社がまず何をすべきかわからず、右往左往してしまうこともあるでしょう。弁護士に相談することで、自社が行うべき具体的な対応が明確になり、必要な対応を着実に進めやすくなります。
適正な損害賠償額が把握できる
3つ目は、適正な損害賠償額が把握できることです。
先ほど解説したように、建設現場で労災事故が起きた場合には損害賠償が必要となります。しかし、適正な賠償額は個々の状況に応じて算定する必要があるため、自社だけで適正に算定するのは容易ではないでしょう。
弁護士に相談することで、状況に応じた適正な損害賠償額が把握でき、事故に遭った従業員やその遺族などへの提案や交渉を的確に進めやすくなります。
建設現場で労災事故が起きてお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。事故の状況に応じ、自社がとるべき対応や適正な損害賠償額などについてアドバイスします。
建設現場での労災事故に関するよくある質問
続いて、建設現場で労災事故に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
労災は、いわゆる1人親方も対象となる?
いわゆる1人親方は、原則として労災保険の対象とはなりません。しかし、労災には特別加入制度があり、この制度を利用して加入している場合には1人親方も労災保険の適用対象となります。
けがではなく、熱中症の場合も労災に該当する?
けがではなく、熱中症であっても、業務遂行性や業務起因性の要件を満たす限り、労災に該当します。
建設現場では屋外の作業や冷房のない屋内での作業に従事させる機会が多いため、特に夏場の作業では熱中症対策にも注意を払う必要があるでしょう。
建設現場での労災事故の対応や対策はアクセルサーブ法律事務所へご相談ください
建設現場での労災事故の対応や対策は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。
- 建設・不動産業界に強い
- 実践的なアドバイスを行っている
- 予防法務に力を入れている
建設・不動産業界に強い
アクセルサーブ法律事務所は、建設・不動産業界に特化しています。業界で起きやすいトラブルや取引慣習などを熟知しているため、より的確なリーガルサポートが実現できます。
実践的なアドバイスを行っている
法的に正しいことと、事業成長に最適なことは一致しない場合もあります。とはいえ、法的なルールを無視していては、健全な事業成長は見込めません。
そこで、アクセルサーブ法律事務所は法的なルールは守りつつも、その先にある「事業のさらなる発展・目標達成」を重視した経営者目線でのアドバイスを提供しています。
予防法務に力を入れている
建設業界で起きるトラブルの中には、適切な対策を講じることで予防できるものも少なくありません。アクセルサーブ法律事務所は「助け合い、称え合い、共に成長し、喜び合う―それが当たり前の世界を創る」ことをゴールに設定し、トラブル発生後の対応のみならず、トラブルを未然に防ぐ「予防法務」にも力を入れています。
まとめ
建設現場の労災事故の傾向を紹介するとともに、建設現場の労災事故の責任の所在に関する考え方や建設現場で労災事故が起きた場合の初期対応などを解説しました。建設業の労災事故は多く、死亡につながる重大事故も少なくありません。
建設現場で労災事故が起きたら、まずは事故に遭った従業員を救護したうえで、現場の状況の保存や聞き取り調査を行いましょう。そのうえで、早期に弁護士にご相談ください。弁護士に相談することでその労災事故について自社が負うべき責任や適正な賠償額などが把握でき、的確な対応を進めやすくなるためです。
アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界に特化しており、建設現場での労災事故についてもサポート実績を有しています。建設現場で労災事故が生じたら、アクセルサーブ法律事務所までお早めにご相談ください。


