建設業の「元請」が負う責任は?弁護士がわかりやすく解説

建設業では多重に下請けがなされることが多く、1つの工事現場で複数の企業や個人事業主がかかわることは珍しくありません。その現場を統括する役割を担うのが元請企業です。
では、建設業の元請企業は、どのような責任を負うのでしょうか?今回は、建設業の元請企業が負う一般的な責任や労災事故の発生時に元請企業が負う責任、施工不良が生じた際に元請企業が負う責任などについて、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(アクセルサーブ法律事務所)は建設・不動産業界に特化しており、建設業の元請となることが多い特定建設業者様からのご相談・サポート実績も豊富です。法令遵守や自社が負うべき責任などについて相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご連絡ください。
建設業の元請とは?
建設業の元請とは、下請契約における注文者である建設業者です(建設業法2条5項)。また、その工事全体において、注文者から直接工事を受注する建設業者を「元請」ということもあります。
冒頭で解説したように、建設現場ではさまざまな企業が工事に関わることが少なくありません。たとえば、注文者であるX社からA社に対して新社屋建設の発注がなされ、A社からB社に大工工事を発注、B社からさらにC社に建具工事を発注、その一方でA社からC社に駐車場部分のとび・土工工事を発注するなどです。
この場合において、工事全体における「元請」はA社です。ただし、C社から見れば工事全体の元請はA社である一方で、自社への発注者であるB社も元請であるということです。この記事では原則として、注文者から直接工事の発注を受けた企業(この例でいえば、A社)を元請として解説を進めます。
なお、建設業許可は「一般建設業許可」と「特定建設業許可」に区分され、特定建設業許可を受けるには一般建設業許可よりも厳しい要件をクリアする必要があります。工事の元請となり、かつ下請企業に1つの工事についてトータル5,000万円(建築工事業の場合は8,000万円)以上の発注をするためには、特定建設業許可を受けなければなりません。
そのため、元請として積極的に工事を受注していく場合には、特定建設業許可が必要となることがほとんどです。
建設業の元請が負う一般的な責任
建設業の元請企業は建設業者として遵守すべき義務に加え、元請企業としてもさまざまな責任を負います。ここでは、元請企業が負う一般的な責任について解説します。
- 現場での法令遵守指導の徹底
- 下請企業の法令違反への是正指導
- 下請企業が是正しない場合における許可行政庁への通報
現場での法令遵守指導の徹底
元請企業である特定建設業者は、工事の下請負人が、工事施工に関して建設業法などに違反しないよう指導に努めなければなりません(建設業法24条の7第1項)。自社が建設業法などを遵守することは大前提であり、これに加えて下請企業の法令遵守指導までもが要請されています。
下請企業の法令違反への是正指導
建設業の元請企業である特定建設業者は、工事施工に関して下請事業者に建設業法などへの違反がある場合、その是正を指導するよう努めなければなりません(同2項)。元請企業である特定建設業者はその工事全体を指揮管理する役割を担っており、下請企業の法令違反についても是正指導するよう求められています。
下請企業が是正しない場合における許可行政庁への通報
建設業の元請企業である特定建設業者は、下請企業の法令違反などについて是正指導をしてもなお違反が是正されない場合、都道府県知事や国土交通大臣などにその旨を速やかに通報しなければなりません(同3項)。この場合の通報先は、それぞれ次のとおりです。
- その下請事業者が都道府県知事から建設業許可を受けている場合:その都道府県知事
- その下請企業が大臣許可を受けている場合:国土交通大臣
- その下請企業が建設業許可を有していない場合:建設工事の現場を管轄する都道府県知事
なお、この規定は「努める」という努力義務ではなく、義務であることに注意が必要です。
現場での労災事故発生時に元請が負う主な責任
建設工事の現場で、労災事故が発生する場合もあります。その場合において、元請企業が負う主な責任を解説します。
- 債務不履行責任(安全配慮義務違反)
- 使用者責任
- 労災保険による補償
安全配慮義務
1つ目は、安全配慮義務です。安全配慮義務とは、職場において労働者の安全と健康を確保すべき義務であり、労働契約法において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」という形で規定されています(同5条)。
この安全配慮義務に違反すると、債務不履行として損害賠償責任を負う可能性があります。
安全配慮義務の責任主体は、原則としてその労働者の雇用主です。たとえば、自社が元請として統括する工事現場で下請企業A社の従業員B氏が負傷した場合、安全管理義務違反に問われるのは、原則として下請企業であるA社だということです。
ただし、工事現場での事故では、元請企業に対して直接安全配慮義務違反が問われるケースも少なくありません。元請企業が下請企業の従業に対して安全配慮義務を負うか否かは、現場の作業環境などに応じて個別的に判断されます。
使用者責任
2つ目は、使用者責任です。使用者責任とは、自社の従業員が事業に関して第三者に損害を与えた場合に、その従業員と連帯して企業が負うべき責任です。
建設現場での工事は、元請企業に雇用されている現場監督などが、下請企業に指示を出す場合なども多いでしょう。その指示にミスがあったことが原因で下請企業の従業員が負傷した場合、その指示をした元請企業の従業員と連帯して、元請企業も責任を負うこととなります。
労災保険による補償
3つ目は、労災保険による補償です。建設業における労働保険の中に、「工事現場の労災保険」というものがあります。これは、建設工事現場の労働者が業務中や通勤途上に災害が起きた場合に備えて、元請の事業主が加入するものです。
対象が「建設工事現場で働く労働者」であるため、建設工事現場で働いていれば、元請企業の従業員だけではなく、下請企業の従業員も補償の対象になります。そのため、下請企業の従業員が建設工事現場での労災事故で負傷した場合、元請企業において加入している労災保険で補償がされる、ということになります。
施工不良の発生時に元請が負う主な責任
施工不良が生じた際、建設業の元請企業はどのような責任を追うのでしょうか?ここでは、施工不良に関する元請企業の責任について解説します。
- 契約不適合責任
- 下請に責任がある場合は、下請企業に責任を追及できることもある
契約不適合責任
施工不良が生じた際、建設業の元請企業は施主に対して契約不適合責任を負います。契約不適合責任とは、請負契約で引き渡された目的物が種類、品質、数量に関して契約に適合しない場合に負う責任です(民法559条、562条~564条)。
たとえば、「仕様書によって外壁の壁を黒色と定めたにもかかわらず、白色で塗装をしてしまった」など契約で明示された仕様などに適合しない場合のほか、「新築する建物を住居としてそのまま使用することが明らかであったにも関わらず、雨漏りがしておりそのままでは住居として使用できない」などの場合にも、契約不適合責任を追及される可能性があります。
仮に、引き渡した建物に雨漏りがするという問題がある場合、具体的には、施主から元請企業に対して次の請求がされる可能性があります。
- 追完請求:雨漏りを直すよう求めること
- 代金減額請求:不適合の程度に応じて請負代金を減額するよう求めること
- 損害賠償請求:雨漏りによって家具が汚損したなど、不適合によって生じた損害を金銭の支払いで償うこと
- 契約解除:たとえば、雨漏りが建物全体に及んでおりとても住める状態ではない場合などに、契約の解除をすること
なお、施主からの請求内容が必ずしも適正であるとは限りません。契約不適合責任を追及されたものの、その請求内容に応じるべきか判断に迷う場合には、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
下請に責任がある場合は、下請企業に責任を追及できることもある
施工不良が原因で施主から契約不適合を理由に損害賠償請求がなされたものの、その施工不良が下請企業のミスによる場合もあるでしょう。
施工不良の原因が下請企業にある場合であっても、施主に対して契約不適合責任を負うのは、原則として元請企業です。ただし、責任の度合いに応じて、下請企業に求償(元請企業が代表して施主に支払った賠償金のうち、一定額を元請企業に返済するよう求めること)ができる可能性があります。
下請企業のミスにより元請企業が契約不適合責任を負ってお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
建設業の元請の責任に関するよくある質問
続いて、建設業の元請け企業の責任に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
下請の施工ミスの場合も元請が責任を負う?
下請企業の施工ミスであっても、施主に対しては元請企業が責任を負います。
ただし、先ほど解説したように、下請企業の施工ミスであることが明確であれば、元請企業から下請企業に対して求償できる可能性があります。
建設業法で定められている元請のその他の義務は?
建設業法が元請企業に課している義務としては、下請代金の支払いや不利益取扱いの禁止などが挙げられます。元請企業の主な義務は、次のとおりです。
- 下請負人の意見の聴取(建設業法24条の2)
- 下請代金の支払い(同24条の3)
- 検査及び引渡し(同24条の4)
- 不利益取扱いの禁止(同24条の5)
- 特定建設業者の下請代金の支払期日等(同24条の6)
- 下請負人に対する特定建設業者の指導等(同24条の7)
- 施工体制台帳及び施工体系図の作成等(同24条の8)
元請企業の責任は重く、建設業法ではさまざまな義務が課されています。建設業法を一読したうえで、遵守すべき義務を把握しておきましょう。
建設業法の遵守に関する相談やアドバイスをご希望の際は、アクセルサーブ法律事務所までご連絡ください。
建設業の元請となる場合に相談できる弁護士をお探しの際はアクセルサーブ法律事務所へお問い合わせください
建設業の元請となる場合に相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所へお問い合わせください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。
- 建設・不動産業界に特化している
- 予防法務に注力している
- 業界実態を踏まえた実践的なアドバイスを得意としている
建設・不動産業界に特化している
アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界に特化しており、下請となることが多い建設業者様のみならず、元請となることが多い建設業者様についても豊富なサポート実績を有しています。
多重で請負契約がなされることの多い建築業界においては、業界特有のトラブルも少なくありません。業界特化型の当事務所にご相談いただくことで、業界実態や取引慣例、業界に関連する判例・裁判例などを踏まえたより的確なサポートが実現できます。
予防法務に注力している
アクセルサーブ法律事務所の最終的なゴールは、「助け合い、称え合い、共に成長し、喜び合う―それが当たり前の世界を創る」です。この目標を達成するため、トラブルが発生してからの対応のみならず、予防法務にも力を入れています。
特に、建設業の元請企業が追う社会的な責任は重く、トラブルが発生すれば厳しい目を向けられる事態にもなりかねません。当事務所にご相談いただきトラブルの予防策を講じることは、万が一の際に自社の身を守ることにつながります。
業界実態を踏まえた実践的なアドバイスを得意としている
短期的な目で見れば、法的に正しいことと事業の発展に寄与することは一致しないこともあるでしょう。しかし、長期的な視点で企業の発展を目指すのであれば、法令遵守を避けて通ることは困難です。
アクセルサーブ法律事務所は、法的なルールは守りつつ、その先にある「事業のさらなる発展・目標達成」を重視したアドバイスを提供します。
まとめ
建設業の元請となる企業が負うべき責任について解説しました。注文者から直接工事を受注する元請企業は工事全体を統括する役割を担い、下請企業の法令遵守指導などさまざまな責任を負います。
また、労災事故の発生時には安全配慮義務違反や使用者責任などを問われる可能性があります。さらに、施工不良があった際は、それがたとえ下請企業のミスによるものであっても、注文者に対して契約不適合責任を負わなければなりません。
元請となる建設業者は自社が負うべき責任を正しく理解したうえで、法令遵守や責務の全うに努めるべきでしょう。
アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界に特化しており、特定建設業許可を有する建設業者様へのサポート実績も豊富に有しています。元請としての責任について、日ごろから相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご連絡ください。


