建設業の「一括下請負禁止」とは?罰則や対策を弁護士がわかりやすく解説

建設業では、一括下請負が原則として禁止されています。この禁止規定に違反すると指示の対象となるほか、営業停止命令や許可取り消し処分がなされる可能性もあります。
では、建設業ではなぜ、原則として一括下請負が禁止されているのでしょうか?また、建設業で一括下請負禁止規定に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?今回は、建設業で禁止される一括下請負の概要や一括下請負が禁止される理由、一括下請負が例外的に適法となるケース、一括下請負の禁止規定に違反しないための対策などについて、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(アクセルサーブ法律事務所)は建設業界に特化しており、建設業法の遵守に関するご相談についても豊富な対応実績を有しています。建設業の一括下請負について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご連絡ください。
建設業で禁止される「一括下請負」とは?
建設業法で禁止されている「一括下請負」とは、自社が請けた工事を、自社が実質的に関与することなく他社に「丸投げ」することです。たとえば、施主から工事を請け負ったA社が、工事全体をそのまま別のB社に発注することなどがこれに該当します。
また、たとえば3筆の分譲区画にXYZの建物をそれぞれ建築する場合、これをまとめて請け負ったA社が、自社が工事に実質的に関与することなく「区画XをB社に、区画YをC社に、区画ZをD社に丸投げする」場合なども、一括下請負に該当する可能性があります。
一方で、工事の下請け自体は建設業で日常的に行われているものであり、一部の工事を下請けに出すとしても、自社が工事に実質的に関与しているのであれば一括下請負には該当しません。
実際の工事の受発注にあたり、一括下請負にあたるか否かの判断に迷うこともあるでしょう。お困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
建設業で原則として一括下請負が禁止される主な理由
建設業で一括下請負が禁止されているのはなぜなのでしょうか?ここでは、一括下請負が禁止される主な理由を3つ解説します。
- 施主の信頼を裏切ることになるから
- ブローカーが横行して中間搾取や工事の質の低下を招きかねないから
- 手抜工事や労働条件の悪化に繋がるから
施主の信頼を裏切ることになるから
一括下請負が禁止される1つ目の理由は、施主の信頼を裏切ることになるからです。
通常、施主は直接の注文先である元請企業を信頼して工事を発注します。「この企業であれば、問題のない工事をしてくれるだろう」と考えるからこそ、その企業に工事を発注するのです。また、工事の一部について別の企業に下請けに出すとしても、その下請企業をきちんと監理監督することを期待していることでしょう。
そうであるにもかかわらず、信頼して工事を任せたA社が請け負った工事をB社に一括下請負に出すのであれば、施主は初めからB社に工事を発注したのと同様の状態となります。これでは、A社を選んで任せてくれた施主の信頼を裏切ることになりかねません。
ブローカーが横行して中間搾取や工事の質の低下を招きかねないから
一括下請負が禁止される2つ目の理由は、仮に一括下請負が無条件で認められるとすると、ブローカーが横行する事態となりかねないからです。
一括下請負をするということは、すなわち、「工事に関係のない会社が取引の中間に入り、手数料を受け取る」ということです。そのため、一括下請負が横行すれば工事に関係のない会社による報酬の中抜き(中間搾取)を許すこととなり、実際に施工にあたる企業への配分が少なくなるおそれが生じます。
その結果、施工能力のない(あるいは低い)不良建設業者が絡むことで、工事の質の低下を招くことになったり、工事代金が高騰する事態となったりすれば、社会全体にとっての損失といえるでしょう。このような理由から、建設業における一括下請負は原則として禁止されています。
例外的に建設業の一括下請負が適法となる条件
建設業の一括下請負は原則として違法であるとはいえ、例外的に適法となる場合があります。一括下請負が適法となるのは、次の2つの条件をいずれも満たす場合です(同22条3項、4項)。
- 条件1:施主から書面等で承諾を得ること
- 条件2:一定の工事に該当しないこと
ここでは、それぞれの条件の概要について解説します。
条件1:施主から書面等で承諾を得ること
条件の1つ目は、一括下請負をすることについて、書面または一定の電磁的方法で施主から直接承諾を得ることです。この承諾は元請企業が施主から直接取り付ける必要があり、「下請企業から元請企業への承諾」などでは足りません。
これは、「元請企業が下請企業に一括下請負に出そうとする」場合のみならず、「下請企業が孫請企業に一括下請負に出そうとする」場合であっても同様です。なぜなら、一括下請負による直接的な影響(工事代金の増大や、工事の質の低下など)の影響を受けるのは、施主であるためです。
条件2:一定の工事に該当しないこと
条件の2つ目は、次のいずれかの一定の工事に該当しないことです(同22条3項、建設業法施行令6条の3、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律14条)。
- 公共工事
- 共同住宅を新築する建設工事
対象の建設工事がこれらに該当するものである場合、たとえ施主から承諾を得ても、一括下請負は適法とはなりません。
建設業の一括下請負禁止規定に違反した場合の罰則
建設業の一括下請け禁止規定に違反すると、国土交通大臣や都道府県知事による指示の対象となるほか、1年以内の期間を定めた営業停止命令の対象となる可能性があります(同28条1項、3項)。
また、違反が重大である場合や、営業停止命令に違反した場合には、許可の取り消し処分がなされます(同29条1項8号)。
一括下請負禁止規定に違反すれば重大な結果を招くおそれがあるため、違反しないよう十分に注意しておきましょう。自社が行おうとしている行為が建設業法で禁止される一括下請負に該当するか否か判断に迷う場合には、アクセルサーブ法律事務所まで事前にご相談ください。
建設業で一括下請負禁止規定に違反しないための対策
建設業で一括下請負禁止規定に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?ここでは、一括下請負をしないための主な対策を3つ解説します。
- 建設業法・国土交通省の通知を十分に理解する
- 元請企業が実質的に工事に関与する
- 判断に迷う際に相談できる弁護士を見つけておく
建設業法・国土交通省の通知を十分に理解する
対策の1つ目は、建設業法や国土交通省の通知を十分に理解しておくことです。知らずに違反する事態を避けるため、まずは関連する建設業法の規定のほか、「何が一括下請負にあたるか」の判断基準を定めた国土交通省の通知(平成28年10月14日付国土交通省通知「一括下請負の禁止について」)を一読し、理解しておくことをおすすめします。
元請企業が実質的に工事に関与する
対策の2つ目は、元請企業として実質的に工事に関与することです。先ほど紹介した国土交通省の通知によると、一括下請負に該当するのは、元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与することなく、次の場合に該当する場合であるとされています。
- 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
- 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
また、「実質的に関与」とは、施工計画の作成や工程管理などについて、一定の役割を果たすことを意味します。「実質的に関与」しているとして果たすべき役割は、元請企業と下請企業とでそれぞれ次のとおりです。
| 元請企業 | 下請企業 | |
|---|---|---|
| 施工計画の作成 | ・請け負った建設工事全体の施工計画書等の作成 ・下請負人の作成した施工要領書等の確認 ・設計変更等に応じた施工計画書等の修正 | ・請け負った範囲の建設工事に関する施工要領書等の作成 ・下請負人が作成した施工要領書等の確認 ・元請負人等からの指示に応じた施工要領書等の修正 |
| 工程管理 | ・請け負った建設工事全体の進捗確認 ・下請負人間の工程調整 | ・請け負った範囲の建設工事に関する進捗確認 |
| 品質管理 | ・請け負った建設工事全体に関する下請負人からの施工報告の確認、必要に応じた立会確認 | ・請け負った範囲の建設工事に関する立会確認(原則) ・元請負人への施工報告 |
| 安全管理 | ・安全確保のための協議組織の設置及び運営、作業場所の巡視等請け負った建設工事全体の労働安全衛生法に基づく措置 | ・協議組織への参加、現場巡回への協力等請け負った範囲の建設工事に関する労働安全衛生法に基づく措置 |
| 技術的指導 | ・請け負った建設工事全体における主任技術者の配置等法令遵守や職務遂行の確認 ・現場作業に係る実地の総括的技術指導 | ・請け負った範囲の建設工事に関する作業員の配置等法令遵守 ・(孫請契約を締結する場合)現場作業に係る実地の技術指導 |
| その他 | ・発注者等との協議・調整 ・下請負人からの協議事項への判断・対応 ・請け負った建設工事全体のコスト管理 ・近隣住民への説明 | ・(孫請契約を締結する場合)元請負人との協議 ・(孫請契約を締結する場合)下請負人からの協議事項への判断・対応 ・元請負人等の判断を踏まえた現場調整 ・請け負った範囲の建設工事に関するコスト管理 ・施工確保のための下請負人調整 |
出典:国土交通省資料「一括下請負禁止の明確化について(H28.10.14通知)」より抜粋
元請企業、下請企業はそれぞれの立場に沿ってこれらの役割を果たすことを求められ、これらの役割を適切に果たしていない場合には一括下請負にあたると判断される可能性があります。そのため、工事を下請けに出す際は自社が工事に実質的に関与することに加え、自社が工事に実質的に関与したことを示す記録などを残しておくとよいでしょう。
判断に迷う際に相談できる弁護士を見つけておく
対策の3つ目は、判断に迷う際に相談できる弁護士を見つけておくことです。
自社の行おうとしている行為が一括下請負に該当するか否か、判断に迷う場合もあるでしょう。そのような際に備え、気軽に相談できる弁護士を見つけておくことをおすすめします。建設業にくわしい弁護士と顧問契約を締結することで、困りごとが生じた際に弁護士に気軽に相談することが可能となります。
アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産法務に特化しており、単発でのご相談・ご依頼はもちろんのこと、顧問契約にも対応しています。困りごとが生じた際に気軽に相談できる弁護士をお探しの建設会社様は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。
建設業の一括下請負禁止に関するよくある質問
続いて、建設業の一括下請負禁止に関してよくある質問とその回答を2つ紹介します。
一括下請負禁止に違反した場合に罰則が適用されるのは、元請?下請?
建設業法に違反して一括下請負をした場合、一括下請負を発注した元請企業とこれを請け負った下請企業の両方に指示や営業停止などの処分が適用されます(建設業法28条、22条1項、2項)。いずれか一方だけが建設業法違反となるわけではないため、誤解のないようご注意ください。
下請企業が元請から請け負った工事を一括して再下請に出すことは違法ではない?
下請企業が元請から請け負った工事を一括して再下請に出すことも一括下請負禁止の規定に違反し、違法となります(同22条1項)。一括下請負禁止について、「注文者から直接請け負った」などの制限はないためです。つまり、下請企業から孫請企業への一括下請負も、原則として違法となります。
建設業の一括下請負について相談できる弁護士をお探しの際はアクセルサーブ法律事務所までお問い合わせください
建設業の一括下請負について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までご連絡ください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。
- 建設・不動産業界に特化している
- 予防法務に注力している
- 経営者目線での実践的なアドバイスを得意としている
建設・不動産業界に特化している
アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界に特化しており、建設会社様や不動産会社様への豊富なサポート実績を有しています。そのため、業界内の取引慣習や生じやすいトラブル、業界に関連する判例・裁判例などを踏まえたより的確なリーガルサポートが実現できます。
なお、当事務所が建設・不動産業界に注力しているのは、「義理・人情」や「人と人との尊敬」がある、素晴らしい業界であると感じているためです。しかし、弁護士目線で見ると、たとえば「契約書がないまま工事を施工し、結果的にトラブルに発展する」ケースが散見されるなど、法律が軽視されやすい業界であるとも感じています。
そこで、「義理・人情」の世界に「法律の正しい使い方」を丁寧に持ち込むことで、建設・不動産業に携わる方々にもっともっと光っていただける未来をともに目指すことが、アクセルサーブ法律事務所の使命であると考えています。
予防法務に注力している
トラブルの中には、未然の対策を講じることで防げるものも少なくありません。アクセルサーブ法律事務所は「助け合い、称え合い、共に成長し、喜び合う―それが当たり前の世界を創る」ことを最終的なゴールとして掲げており、この目的を達成するため、トラブルを防ぐ「予防法務」に力を入れています。
経営者目線での実践的なアドバイスを得意としている
法的に正しいことと経営として望ましいことは一致しないことも多く、これを日々実感されている経営者様も少なくないことでしょう。しかし、長期的な視点で見れば、法律を守らなければ自社の経営を危うくすることにもなりかねません。
アクセルサーブ法律事務所は、法的なルールは守りつつも、その先にある「事業のさらなる発展・目標達成」を重視した経営者目線でのアドバイスを得意としています。
まとめ
建設業の一括下請負禁止について、概要や一括下請負が禁止される理由、一括下請負が例外的に適法となる条件、一括下請負の禁止規定に違反しないための対策などを解説しました。
一括下請負とは、請け負った工事を、自社が実質的に関与することなく他社に「丸投げ」することです。一括下請負は施主の信頼を裏切ることになるほか、ブローカーが横行して建設工事の質の低下を招きかねないため、建設業法で原則として禁止されています。
理解不足から一括下請負の禁止規定に違反する事態を避けるため、建設業法や国土交通省の通知の内容を十分に理解したうえで、自社が実質的に工事に関与することを徹底するべきでしょう。また、建設業に強い弁護士と顧問契約を締結しておくことで、判断に迷った際に気軽に相談することが可能となります。
アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界に特化しており、思わぬトラブルや法令違反を避ける予防法務に強みを有しています。一括下請負の禁止など、建設業法に関する相談もできる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までまずはお気軽にご連絡ください。


