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工事請負契約書が「ない」のは違法?リスクと発生しうるトラブルを弁護士が解説

工事請負契約書が「ない」のは違法?リスクと発生しうるトラブルを弁護士が解説

建設工事を請け負ったり発注したりする際は、契約書を取り交わすべきです。しかし、実際には工事請負契約を交わさないまま工事に着工することも多く、これが原因でトラブルが発生することもあります。

では、工事請負契約書がないことは、どのようなトラブルの原因になるのでしょうか?また、工事請負契約書がない場合でも、請負代金の請求はできるのでしょうか?今回は、工事請負契約書の概要や工事請負契約書がない場合に生じ得るトラブル、工事請負契約書がない場合における報酬請求の可否、工事請負契約書への記載事項などについて弁護士がくわしく解説します。

なお、当事務所(アクセルサーブ法律事務所)は建設・不動産業界のサポート実績が豊富であり、工事請負契約書の作成やレビューについてもご相談いただけます。工事請負契約書についてサポートを受ける弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

工事請負契約書とは?

工事請負契約書とは、工事の発注者と受注者の間で取り交わす契約書です。工事請負契約書では、受発注する具体的な工事の内容や工事の報酬額、工期などについて定めます。

工事請負契約書は書面で交わす場合が多いものの、電子で取り交わすことも可能です。

工事請負契約書がない問題点

工事請負契約がないことには、主に次の2つの点から問題があります。

  • 建設業法違反にあたる
  • トラブルの原因になる

ここでは、それぞれの概要を解説します。

建設業法違反にあたる

工事請負契約書の作成は建設業法で義務付けられており、契約書を交わさずに工事を施工することは建設業法に違反します(建設業法19条)。

契約書を交わさなかったからといって直ちに罰則が適用されることはないものの、指導や監督処分、公表などの対象となる可能性があります。さらに、これに従わない場合には営業停止処分の対象となり、重大な結果を招くおそれがあるでしょう。

トラブルの原因になる

工事請負契約書を交わさないまま工事に着工することは、さまざまなトラブルの原因となり得ます。また、トラブル発生時の解決が困難となり、トラブルが長期化するおそれもあるでしょう。工事請負契約がないことで生じ得る主なトラブルは、次で改めて解説します。

工事請負契約書がないことで生じる主なトラブル

工事請負契約書がない場合、具体的にどのようなトラブルの原因になるのでしょうか?ここでは、工事請負契約書がないことによって生じやすい主なトラブルを4つ解説します。

  • 口頭の取り決め通りに施工したにもかかわらず、契約不適合責任を追及される
  • 追加工事をしたものの、追加工事分の報酬を払ってもらえない
  • 中途解約時の報酬額について交渉がまとまらない
  • 工事代金を払ってもらえない

工事請負契約書がないことでトラブルに発展してお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。具体的な状況に応じ、実績豊富な弁護士が最善の解決策をアドバイスします。

口頭の取り決め通りに施工したにもかかわらず、契約不適合責任を追及される

工事請負契約書がないまま工事に着工する場合、口頭での取り決めに従って適切に施工をしたにもかかわらず契約不適合責任を追及されるおそれが生じます。

契約不適合責任とは、引き渡された目的物が契約の内容に適合していない場合に追及され得る責任のことです。具体的には、契約内容に適合するよう追完(補修)することや請負代金を減額すること、損害の賠償や契約解除などが求められる可能性があるでしょう。

契約不適合責任は目的物が「契約に適合しない」場合に追及されるものであり、目的物が「契約に適合しているか否か」が責任を追及されるか否かの重要な分かれ目となります。契約書がなく仕様が明確になっていない場合には契約内容について「言った・言わない」などのトラブルが生じ、争いが長期化するおそれがあります。

追加工事をしたものの、追加工事分の報酬を払ってもらえない

工事の途中で、追加工事や仕様の変更が生じることは珍しくないでしょう。施主側の都合により追加工事や仕様変更が生じた場合、別途報酬を請求できることが原則です。

しかし、そもそも工事請負契約書がなく当初の仕様が明確になっていなければ、施主側から追加工事や変更工事について「初めからその内容で依頼したはずだ」などと主張され、追加分の報酬請求が困難となるおそれがあります。

中途解約時の報酬額について交渉がまとまらない

工事請負契約書が施主側の都合で中途解除された場合には、施工会社がすでにした工事のうち可分な部分を仕事の完成とみなし、これに対応する分の報酬を請求できます(民法634条)。しかし、実際には「どの部分が仕事の完成と言えるのか」「その部分の報酬としていくらが適当なのか」を客観的に判断するのは容易ではないでしょう。そこで、工事請負契約書で、中途解約時の報酬の算定方法を定めることが一般的です。

一方で、工事請負契約書がない場合には中途解約時の報酬の算定方法について合意した明確な証拠がありません。そこで、「どの部分が仕事の完成と言えるのか」「その部分の報酬としていくらが適当なのか」について両者の主張がまとまらず、トラブルが長期化するおそれがあります。

工事代金を払ってもらえない

工事請負契約書がない場合、相手方が「工事は正式には発注していない」「工事は発注したが、契約不適合があるので支払わない」など何らかの理由をつけて、工事代金を支払わないリスクが高くなります。

また、工事請負契約書がなければ、解決に時間を要する可能性もあるでしょう。これについては、次でくわしく解説します。

工事請負契約書がない場合でも工事代金は請求できる?

そもそも、工事請負契約書がなくても工事代金の請求はできるのでしょうか?ここでは、順を追って解説します。

契約自体は口頭でも成立するため、報酬請求権も発生する

契約は、口頭であっても生じます。そのため、たとえ工事請負契約書がなかったとしても、仕事の対価としての報酬の請求は可能です。

工事代金が未払いとなった場合は、証明のハードルが高くなる

工事代金が未払いとなり、相手方に直接請求をしても支払ってもらえない場合には、訴訟や強制執行などで解決をはかることとなります。

しかし、工事代金の未払金を裁判上で請求するには、「工事請負契約の合意があったこと」や「合意した報酬額」などの事実を証明しなければなりません。工事請負契約書があればこの証明が比較的容易である一方で、工事請負契約書がない場合にはメールやFAXなどのやり取りからこれらを1つずつ証明する必要が生じ、非常に手間がかかります。

「工事請負契約の合意があったこと」や「合意した報酬額」などが証明できず、相手方も契約の成立を否定している場合などには、工事代金を回収するハードルが非常に高くなるおそれがあるでしょう。このようなリスクを避けるためにも、工事請負契約書は必ず取り交わしておくべきです。

工事請負契約書に定めるべき事項

工事請負契約書には、どのような事項を定める必要があるのでしょうか?ここでは、工事請負契約書に定めるべき主な内容について解説します。

なお、工事請負契約書については、国土交通省から「建設工事標準請負契約約款」が公表されています。この建設工事標準請負契約約款では法定記載事項が網羅されているため、これをベースに実情に合う内容に作り替えると漏れが生じづらいでしょう。

とはいえ、実際に契約書を交わす際は、請負契約の実態に合うよう、約款を適宜作り変える必要があります。約款の修正には法令などに対する正しい理解が必要であるため、お困りの際はアクセルサーブ法律事務所までご相談ください。

法定記載事項

工事請負契約書に記載すべき事項は、建設業法で次のように定められています(建設業法19条1項)。

  1. 工事内容
  2. 請負代金の額
  3. 工事着手の時期及び工事完成の時期
  4. 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
  5. 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
  6. 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
  7. 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
  8. 価格等の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め
  9. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
  10. 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
  11. 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
  12. 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
  13. 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
  14. 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
  15. 契約に関する紛争の解決方法
  16. その他国土交通省令で定める事項

工事請負契約書には、少なくともこれらの内容を記載しなければなりません。

その他記載が望ましい事項

工事請負契約書には、法定記載事項以外にも記載が望ましい項目があります。必要に応じて記載すべき主な事項を4つ解説します。

  • 現場代理人に関する事項
  • 一括下請負の定め
  • 反社会勢力排除条項
  • 秘密保持条項

現場代理人に関する事項

現場代理人とは、工事現場の運営や取り締まり、工事の施工に関する事務処理を行う代理人です。現場代理人を置く場合、現場代理人の権限に関する事項や現場代理人の行為について注文者から請負人に対して意見を申し出る方法などを、書面により注文者に通知しなければなりません(同19条の2)。

現場代理人を設置する場合には、工事請負契約書内であらかじめ必要な事項を定めておくとスムーズでしょう。

一括下請負の定め

建設業法において、一括下請負は原則として禁止されています。一括下請負とは、他社に「丸投げ」することです。

ただし、公共工事や一定の重要な建設工事に該当する場合を除き、元請負人が発注者から事前に書面による承諾を得たときは、例外的に一括下請負が認められます。

一括下請負を予定している場合には、その工事が一括下請負ができない重要な建設工事に該当しないことを確認したうえで、工事請負契約書内で一括下請負の承諾に関する事項を定めておくとよいでしょう。

反社会勢力排除条項

万が一反社会勢力と関与してしまうと、重大なトラブルの原因となりかねません。そこで、自社の身を守るためにも、工事請負契約書には反社会勢力ではないことなどをお互いに表明する反社会勢力排除条項(いわゆる「反社条項」「暴排条項」)を設けておくとよいでしょう。

秘密保持条項

建設工事の請負契約に関して、ノウハウや営業上の秘密などを知る機会が生じる場合があります。工事の請負に関して「漏らされたくない情報」がある場合には、工事請負契約書内に秘密保持条項を設けておくとよいでしょう。

工事請負契約書がない工事に関するよくある質問

続いて、工事請負契約書がないことに関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。

追加工事についても、工事請負契約書は必要?

追加工事についても、工事請負契約書は必要です。建設業法では、追加工事や変更工事についても契約書の取り交わしを求めています(建設業法19条2項)。

また、追加工事であるからといって、トラブルに発展しない保証はありません。そのため、追加工事であっても、原則どおり工事請負契約書を交わすべきでしょう。

リフォーム工事にも、工事請負契約書は必要?

リフォーム工事についても、工事請負契約書は必要です。新築工事ではなくリフォーム工事であるからといって、工事請負契約書が不要となる理由はありません。

むしろ、リフォーム工事である方が「どこをどのようにリフォームするのか」について認識の齟齬が生じれば、トラブルに発展するおそれがあるでしょう。そのため、リフォーム工事であっても工事請負契約書を交わすことをおすすめします。

工事請負契約書がないことでお困りの建設会社様はアクセルサーブ法律事務所へご相談ください

工事請負契約書がないことでお困りの建設会社様は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。

  • 建設・不動産業界に特化している
  • 契約書の作成など「予防法務」に注力している
  • 業界実態を踏まえた実践的なアドバイスを得意としている

建設・不動産業界に特化している

アクセルサーブ法律事務所は、建設・不動産業界に特化しています。そのため、業界における取引実態や業界で起きやすいトラブル、業界に関する判例や裁判例などを踏まえたより的確なリーガルサポートを提供できます。

契約書の作成など「予防法務」に注力している

アクセルサーブ法律事務所は「助け合い、称え合い、共に成長し、喜び合う―それが当たり前の世界を創る」ことを最終的なゴールとして定め、「起こった紛争を解決する」だけではなく、「紛争が起こらない環境」をお客様に提供することこそが使命であると考えています。

これを達成するため、トラブルを避けるための「予防法務」に力を入れており、トラブル予防に資する契約書の作成支援などを得意としています。

業界実態を踏まえた実践的なアドバイスを得意としている

法的に正しいことと、経営として望ましいことは必ずしも一致しません。そうであるにもかかわらず、弁護士が法的な正しさだけを重視して解決策を押し付けてしまえば対応が形骸化してしまい、抜本的な解決には至らないでしょう。

アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産会社の経営実態を深く理解しており、法的なルールは守りつつ、その先の「事業のさらなる発展・目標達成」をも重視した経営者目線でのアドバイスを提供しています。

まとめ

工事請負契約書の概要や工事請負契約書がないことで生じ得るトラブル、工事請負契約書に定めるべき事項などを解説しました。

建設工事の請負契約を締結する場合、書面または電子で契約書を交わさなければなりません。契約書がないまま建設工事を請け負うことは建設業法に違反するのみならず、トラブルの原因となる可能性もあります。

工事請負契約書がないことで生じ得るトラブルとしては、取り決めどおりに施工したにもかかわらず契約不適合責任を追及されることや追加工事分の報酬を払ってもらえないこと、中途解約時の報酬額について交渉がまとまらないことなどが挙げられます。工事に関するトラブルを避けるためにも、建設工事の請負に際しては契約書を取り交わしておくべきでしょう。

アクセルサーブ法律事務所は建設・不動産業界に特化しており、工事請負契約書の作成やレビューに関するサポートについて豊富な実績を有しています。工事請負契約書について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

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