工事現場での死亡事故の責任の所在は?弁護士がわかりやすく解説

工事現場は危険と隣り合わせであり、いくら注意していても事故が起きてしまうことがあります。
では、工事現場で死亡事故が発生した場合、その責任は誰にあるのでしょうか?また、工事現場で死亡事故が発生した場合、まずはどのように対応すれば良いのでしょうか?今回は、工事現場での死亡事故の責任について、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(アクセルサーブ法律事務所)は建設・不動産業界に特化しており、労災事故への対応についても豊富なサポート実績を有しています。工事現場で死亡事故が発生し、自社が負うべき責任についてお悩みの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
工事現場での事故のリスクは高い
工事現場では、事故のリスクが低くありません。
厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課が2025年7月に公表した「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」によると、2024年中における死亡災害発生件数は全産業の合計で746件であり、そのうちの約31%である232件が建設業で発生しました。なお、次いで死亡災害発生件数が多かったのは製造業であり、142件です。
また、建設業における2024年の死亡事故の原因は、多い順から次のようになっています。
- 墜落・転落(77件)
- 崩壊・倒壊(30件)
- はさまれ・巻き込まれ(25件)
- 激突され(21件)
建設業では事故のリスクが高いからこそ、企業は事故の防止に努めるとともに、万が一事故が起きた際の対応についても理解しておく必要があります。
工事現場で死亡事故が発生した場合の事業主の主な責任
工事現場で死亡事故が発生した場合に事業主が負う責任は、「民事責任」「刑事責任」「社会責任」の3つに分類できます。ここでは、それぞれの概要を解説します。
- 民事責任
- 刑事責任
- 社会的責任
民事責任
民事責任とは、被害者が受けた損失を金銭の支払いで償う責任です。
工事現場で死亡事故が発生した場合、その遺族に対して損害賠償をする必要が生じます。具体的に支払うべき賠償金の額は状況により大きく変動するものの、死亡事故という重大な結果を招いている以上、高額な賠償金の支払いが必要となる可能性が高いでしょう。
また、死亡事故に巻き込まれて通行人が負傷した場合はその通行人に対し、死亡事故に伴いリースをしいていた重機が破損した場合にはその重機の所有者に対し、それぞれ損害賠償責任を負います。
刑事責任
刑事責任とは、犯罪行為に対して国から制裁を受ける責任です。
工事現場で死亡事故が発生した場合、現場責任者などが「業務上過失致死罪」に問われる可能性があります(刑法211条)。業務上過失致死罪の刑事罰は、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
また、企業として行うべき危険防止措置を怠るとも労働安全衛生法違反として刑事罰に問われる可能性があります。労働安全衛生法違反による刑事罰は、6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
社会的責任
社会的責任とは、企業の評判が低下するリスクです。
工事現場で死亡事故が発生した場合、これがニュースなどで報じられる可能性があります。これにより企業のイメージが低下し、株価や売り上げが低迷したり求人がしづらくなったりする可能性があるでしょう。
工事現場での死亡事故の責任は誰にある?
建築業界では下請がなされることが多く、多重に下請がなされたり専門工事ごとに複数社に下請がなされたりすることが一般的です。そのため、1つの工事現場に複数社の従業員がいることは珍しくありません。
では、工事現場での事故で下請企業の従業員が死亡した場合、その責任は誰にあるのでしょうか?ここでは、責任を負う可能性がある人についてそれぞれ概要を解説します。
- 使用者である下請企業
- 元請企業
- 発注者
- 上司や同僚などの個人
工事現場で死亡事故が起き、自社が負うべき責任についてお悩みの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
使用者である下請企業
工事現場で死亡事故が起きた場合、まずは死亡した従業員の直接の雇用主である下請企業に対して損害賠償請求などがなされることが一般的です。企業はそれぞれ、自社の労働者の安全と健康を確保すべき「安全配慮義務」を負っているためです。
元請企業
工事現場での死亡事故では、元請企業に対して責任が追及される場合もあります。工事現場では事実上元請け企業の指示に従って下請企業の従業員が作業に従事する場面も多く、その場合には実質的な使用関係にあったと判断される余地があるためです。
この場合には、元請企業に対して安全配慮義務違反による責任追及がなされることがあります。
また、現場監督など元請企業の従業員の過失によって死亡事故が生じた場合には、使用者責任の観点から元請企業に責任追及がなされる場合もあります。使用者責任とは、事業に関して自社の従業員が第三者に損害を与えた場合、その従業員と連帯して雇用主である企業が負うべき責任です。
発注者
工事現場で死亡事故が発生したとしても、原則として発注者には責任がありません。
ただし、発注者が頻繁に現場に訪れて作業者に指示をしていた場合や、発注者が具体的な施工方法を指示したもののその施工方法に問題があった場合など、発注者と死亡した労働者が事実上の使用関係にあったと判断されれば、例外的に安全配慮義務違反による責任を負う可能性はあります。
上司や同僚などの個人
工事現場での死亡事故では、上司や同僚などの個人に対して責任が追及される場合もあります。
たとえば、現場監督が誤った作業指示を出したことで死亡事故が起きた場合はその現場監督に、現場でふざけていた従業員が原因で足場が倒壊して死亡事故が起きた場合はそのふざけていた従業員に、荒天による作業中止の連絡が来ていたにもかかわらず上司の独断で作業をしたところ死亡事故が起きた場合はその上司などに対して、責任が追及される可能性があるでしょう。
なお、先ほど解説したように、この場合には責任を負うべき個人と連帯してその雇用主である企業が使用者責任を負うこととなります。
工事現場で死亡事故が発生した場合の初期対応
工事現場で死亡事故が起きてしまった場合、まずはどのように対応すれば良いのでしょうか?ここでは、現場で死亡事故が発生した際の初期対応を解説します。
- 救護活動をする
- 各所に報告をする
- 現場の状況を確認し保存する
- 関係者から事情を聴く
- 弁護士へ相談する
- 遺族の労災請求に協力する
救護活動をする
工事現場で事故が発生したら、まずはその場に居合わせた人で救護活動を行います。また、本人の状態や事故の状況などから緊急性が高いとみられる場合には、すぐに救急車を手配します。
なお、労災である場合には、治療にあたって通常の健康保険は原則使用できません。誤って健康保険で受診した場合には、労働基準監督署への費用請求や健康保険から誤って支払われた7割部分の返還などの手続きの負担が生じます。そのため、搬送にあたっては可能な限り、労災であることを伝えましょう。
各所に報告をする
現場で初期の救護活動が完了したら、会社から各所に報告をします。この段階で会社がまず報告をすべき先は、労働基準監督署や警察署などです。
現場の状況を確認し保存する
工事現場で死亡事故が起きた場合、警察による現場検証がなされる可能性があります。そのため、事故現場は警察の指示があるまで清掃したりせず、そのままの状態としておきましょう。
併せて、現場の写真や動画も残します。これは、労働基準監督署や警察などへの報告のほか、遺族への説明でも必要となるためです。
関係者から事情を聴く
次に、その場に居合わせた人などの関係者から事故の事情を聞きます。
事故から時間が経過すると記憶が薄れ、複数人の証言に矛盾が生じるなど、真実の把握が困難となるおそれが生じます。関係者の話の辻褄が合わなければ報告が不正確となったり、遺族から不信感を抱かれたりするかもしれません。
そのため、記憶が新しいうちに関係者から事故が起きた時刻や事故が起きた状況などについての事情を聴き、記録を残しましょう。
弁護士へ相談する
次に、弁護士へ相談します。弁護士は誰でも良いわけではなく、企業側での労災事故対応実績が豊富な弁護士を選ぶと良いでしょう。労災事故について弁護士にサポートを受ける主なメリットは、後ほどくわしく解説します。
工事現場の死亡事故について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までご連絡ください。当事務所は建築・不動産業界について豊富なサポート実績を有しており、安心して対応をお任せいただけます。
遺族の労災請求に協力する
労災事故である場合、労働者災害補償保険法の規定に基づき、遺族が一時金や年金などを請求できます。この請求にあたっては、会社側の協力が必要となります。そのため、企業としては遺族の労災請求に真摯に協力しましょう。
工事現場での労災事故について弁護士に依頼する主なメリット
工事現場の労災事故に関して弁護士に依頼することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、主なメリットを4つ解説します。
- そのケースにおける自社の責任が明確となる
- 刑事責任を問われる可能性を踏まえ、適切な対応のアドバイスが受けられる
- 適正な損害賠償額が把握できる
- 対応を弁護士に任せられる
工事現場での労災事故について対応を依頼できる弁護をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。アクセルサーブ法律事務所は建設業界に特化しており、民事・刑事の両面において解決へ向けてサポートします。
そのケースにおける自社の責任が明確となる
1つ目は、そのケースにおける自社の責任が明確となることです。
工事現場では複数の企業が関与することも多く、死亡事故の法的責任が自社にあるか否か、自社は具体的にどのような責任を負うのかなど、把握が難しい場合も多いでしょう。弁護士に相談することで、具体的な状況に応じて自社が負うべき責任の有無や、負うべき責任の内容などが明確となります。
刑事責任を問われる可能性を踏まえ、適切な対応のアドバイスが受けられる
2つ目は、刑事責任を問われる可能性を踏まえ、適切な対応のアドバイスが受けられることです。
先ほど解説したように、工事現場で死亡事故が発生した場合には、刑事責任に問われる可能性が生じます。そこで、警察などによる取り調べや事情聴取がなされることとなります。
その際、誤った対応をしたり不用意な発言をしたりすれば、不利な結果となるおそれがあるでしょう。一方で、早期段階から適切な対応をすることで、起訴を回避できる可能性もあります。
弁護士に依頼することで状況に応じたアドバイスが受けられ、状況に応じた最善な対応をとりやすくなります。
適正な損害賠償額が把握できる
3つ目は、適正な損害賠償額が把握できることです。
工事現場での死亡事故について自社が賠償責任を負う場合、具体的な賠償額の検討が必要となります。特に、死亡事故では遺族感情にも十分に留意しなければなりません。提示する賠償額が少なすぎれば遺族の感情を逆撫でし、解決が遠のくおそれがあるでしょう。
弁護士にサポートを依頼することで、そのケースにおける適正な賠償額を検討しやすくなります。
対応を弁護士に任せられる
4つ目は、対応を弁護士に任せられることです。
工事現場で死亡事故が生じた場合、被害者遺族や労基署、警察署、施主などさまざまな先への対応が必要となります。場合によっては、メディアへの対応が必要となる場合もあるでしょう。
弁護士に依頼することで弁護士に対応を任せることが可能となり、自社が直接対応すべき場面を最小限に抑えられます。また、弁護士のサポートを受けて全体の対応方針を定めて1つずつ問題をクリアしていくことで、解決へ向けて1歩ずつ着実に歩みを進めることが可能となります。
工事現場の死亡事故の責任に関するよくある質問
続いて、工事現場での死亡事故に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
労災保険は下請と元請どちらのものを使う?
工事現場の事故では、原則として元請の労災保険(現場労災)を使います。労災保険において、建設業では1つの現場を1つの事業体であるとみなし、元請企業がその現場に従事する労働者全体について労災保険の加入手続きをするためです。
ただし、いわゆる「1人親方」や個人事業主などは労災保険の対象外であるため、労災保険の適用を受けるには特別加入などの手続きが必要となります。
工事現場で死亡事故が起きた場合、損害賠償額は誰が決める?
工事現場で死亡事故が起きた場合の損害賠償額は、賠償責任を負う企業と遺族との交渉できまるのが原則です。ただし、交渉がまとまらない場合は最終的には裁判に移行することとなり、裁判となれば最終的には裁判所が決断を下します。
工事現場で死亡事故が起き、賠償額の交渉などでお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
工事現場で死亡事故が起きた場合の対応や予防策の検討はアクセルサーブ法律事務所へご相談ください
工事現場で死亡事故が起きた場合の対応や予防策の検討は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。
- 建築・不動産業界の法務に強い
- 予防法務に力を入れている
- 机上の空論ではなく、業界の実態に即したアドバイスを行っている
建築・不動産業界の法務に強い
アクセルサーブ法律事務所は、建築・不動産業界に特に強みを有しています。これらの業界におけるサポート実績が豊富であり、業界における取引慣習や判例などを踏まえた的確なリーガルサポートの提供を実現しています。
予防法務に力を入れている
トラブルの中には、事前の対策で防止できるものや、事前に対策を講じることで解決がスムーズとなるものが少なくありません。アクセルサーブ法律事務所はトラブル発生後の対応のみならず、予防法務にも力を入れています。
机上の空論ではなく、業界の実態に即したアドバイスを行っている
法的に正しいことと事業にとって最適なことは、一致しない場合もあるでしょう。とはいえ、企業の永続的な成長を目指すのであれば、法的なルールを軽視することはできません。
アクセルサーブ法律事務所は、法的なルールは守りつつその先にある「事業のさらなる発展・目標達成」も重視し、より実践的なアドバイスを提供します。
まとめ
工事現場で起きた死亡事故の責任の所在や追及され得る責任の内容、工事現場で死亡事故が起きた場合の初期対応などを解説しました。
工事現場で死亡事故が起きた場合の責任は、原則としてその死亡した労働者の雇用者にあります。しかし、現場での作業状況や指揮命令の状況によっては、元請企業や発注者、現場監督などの個人に責任があるとされる可能性もあります。
工事現場で死亡事故が起きた場合に生じる責任としては、損害賠償を中心とした民事責任や刑事責任、社会的責任が挙げられます。自社が関わる現場で事故が発生したら、まずは弁護士へ相談し、自社が負うべき責任を正しく把握することから始めましょう。
アクセルサーブ法律事務所は建築・不動産業界に特化しており、現場で死亡事故が起きた場合の対応についてもご相談いただけます。工事現場で死亡事故が起き、自社が負うべき責任について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご連絡ください。


