工事請負契約の「解除」は「損害賠償」の対象になる?ケース別に弁護士がわかりやすく解説

工事請負契約を締結した後で、さまざまな事情から解除を検討することもあるでしょう。しかし、いったん締結した契約を解除する場合、状況によっては損害賠償責任が生じることに注意しなければなりません。発注者と請負人のいずれの立場であったとしても、相手方の一方的な都合だけで契約を解除されてしまうと、困った事態となるためです。
また、相手方に問題がありそれが原因で契約を解除する場合、解除をする側から損害賠償請求ができるケースもあります。
では、工事請負契約の解除で損害賠償責任が生じるのは、どのような場合なのでしょうか?また、工事請負契約の解除や損害賠償請求をしようとする場合、どのような流れで進めれば良いのでしょうか?今回は、工事請負契約の解除や損害賠償請求について、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(アクセルサーブ法律事務所)は建築・不動産業界に特化しており、工事請負契約の解除や損害賠償に関するご相談についても豊富な対応実績を有しています。工事請負契約の解除や損害賠償でお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。
工事請負契約解除の3つのパターンと損害賠償請求の可否
はじめに、工事請負契約の解除の3パターンを紹介するとともに、それぞれの解除における損害賠償請求の可否について解説します。
- 【発注者からの解除】請負人の契約違反が原因である解除
- 【発注者からの解除】発注者の都合による解除
- 【請負人からの解除】発注者に契約違反などがある場合の解除
【発注者からの解除】請負人の契約違反が原因である解除
工事請負契約の解除の1つ目のパターンは、請負人の契約違反があることを原因として、発注者側から解除するものです。
請負人に契約違反があり、催告をしてもなおその違反(不履行)が是正されない場合には、注文者からの契約解除が可能となります(民法541条本文)。この場合において、注文者に損害が発生している場合には、契約の解除と併せて損害賠償請求をすることが可能です(同415条1項)。
ただし、その不履行の程度が契約の趣旨や社会通念に照らして軽微であるときは、契約解除はできません(同541条但書)。
【発注者からの解除】発注者の都合による解除
工事請負契約の解除の2つ目のパターンは、発注者の都合により、発注者から解除するものです。たとえば、発注者である企業が新事業を展開するためにその拠点となる建物建築を発注したものの、建築の途上で企業の方針が変わり新事業を取りやめることとなった場合に、建物の建築請負契約を解除する場合などがこれに該当します。
民法の規定では、請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも契約を解除できるとされています(民法641条)。ただし、この場合には請負人に対して生じた損害を賠償しなければなりません。
【請負人からの解除】発注者に契約違反などがある場合の解除
工事請負契約の解除の3つ目のパターンは、発注者に契約違反があったことを受け、請負人の側から契約を解除するものです。
たとえば、注文者が施工に必要な資料や材料を請負人に対していっこうに提供しない場合や注文者が工事を妨害する場合などに、やむを得ず請負人の側から契約を解除する場合などがこれに該当します。
この場合には、請負人に契約違反があり発注者側から解除する場合と同じく、まずは原則として催告をし、それでもなおその違反が是正されない場合に契約解除が可能となります(民法541条)。また、注文者の契約違反により請負人に損害が生じている場合には、解除と併せて損害賠償請求をすることも可能です(同415条)。
なお、逸失利益(解除がなければ、将来得られたはずの報酬)も損害額に含めて請求できると考えられます。なぜなら、解除するまでに請負人が行った仕事については部分的な仕事の完成とみなし、完成した仕事の部分に応じた報酬を請求できる旨の規定があるためです(同634条)。
また、請負人の側から一方的に工事請負契約を解除できるのは注文者に契約違反がある場合や注文者が破産をした場合など一定の場合に限られており、これ以外の場合に解除をするには、注文者との合意が必要です。
工事請負契約の解除や損害賠償請求をする流れ
工事請負契約を解除しようとする場合、どのような流れで進めれば良いのでしょうか?ここでは、基本的な流れを解説します。
- 相手の契約違反の有無を確認する
- 相手方に契約違反があれば、証拠を残す
- 契約書で定めた解除のルールを確認する
- 弁護士に相談する
- 必要に応じて、催告をする
- 解除や損害賠償請求などの措置を講じる
1.相手の契約違反の有無を確認する
はじめに、相手方(注文者から解除するのであれば、請負人。請負人から解除するのであれば、注文者)の契約違反の有無を確認します。先ほど解説したように、相手方の契約違反の有無によってその後の進め方や注意すべき点などが大きく異なるためです。
2.相手方に契約違反があれば、証拠を残す
相手方に契約違反があれば、その証拠を残します。証拠がなければ、契約解除を申し入れた際に相手方から「契約違反はなかった」と主張され、解除が困難となったり相手方から損害賠償請求をされたりするおそれがあるためです。
3.契約書で定めた解除のルールを確認する
工事請負契約の解除には、原則として民法の規定が適用されるものの、当事者間で取り交わした契約書によって法令とは異なる定めを設けている場合、契約書の規定が優先的に適用されます。
たとえば、民法では「相当の期間」とされている催告期間について、契約書で具体的な期間を定めていることは多いでしょう。また、民法では催告の方法について特に規定はないものの、契約によって「書面での催告」に変更されている場合もあります。さらに、催告を経ずに解除できるケースについて、契約書では催告が必要とされるケースも散見されます。
工事請負契約の解除についてはトラブルの原因となりやすいため、契約書で定めた解除のルールを確認したうえで、その規定に従って慎重に進める必要があります。
4.弁護士に相談する
次に、弁護士に相談をします。
先ほど解説したように、工事請負契約を解除すれば、相手方から反論されてトラブルとなる可能性があります。そのため、相手方から反論がされても持ち堪えられるよう、事前に相手方の契約違反の証拠を固めたり、解除のルールを確認したりしておく必要があります。さらに、万が一相手方から反論された場合に備え、その場合の対応方法も検討しておくべきでしょう。
これらを的確に実現するため、解除や損害賠償請求に先立って弁護士にご相談ください。工事請負契約の解除や損害賠償請求について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までご連絡ください。
5.必要に応じて、催告をする
法令や契約書に照らし、解除に先立って催告が必要となる場合には、相手方に催告をします。
民法では、催告の方法について定めはありません。しかし、たとえ契約書でも催告の方法について定めがなかったとしても、可能な限り解除を前提とする解除は内容証明郵便の送付などで行うべきでしょう。
内容証明郵便とはいつ誰から誰にどのような内容の文書が差し出されたかを日本郵便株式会社が証明する制度であり、内容証明郵便で催告をすることで、催告をしたこととその日付などの証拠が残るためです。
6.解除や損害賠償請求などの措置を講じる
催告をしてから所定の期間が過ぎても相手方の契約違反が是正されない場合、この段階で解除や損害賠償請求に踏み切ります。
なお、適正な損害賠償請求額は状況によって大きく異なるため、弁護士に相談したうえで請求額を検討すると良いでしょう。建築業界に特化した弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
発注者から工事請負契約を解除する場合の注意点
発注者側から工事請負契約を解除する場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、主な注意点を3つ解説します。
- 発注者都合による解除は、完成割合に応じた請負代金の支払いが必要となる
- 契約不適合による解除では、不適合を知ってから原則1年以内の通知が必要である
- 原則として、契約書の規定が法律の規定に優先する
発注者都合による解除は、完成割合に応じた請負代金の支払いが必要となる
発注者都合により工事請負契約を解除する場合、請負人に対して損害を賠償しなければなりません(同641条)。
また、請負が仕事の完成前に解除されたときは、その時点までに完成した部分を仕事の完成とみなしてその割合に応じて報酬を請求できるとされています(同634条)。そのため、この場合に賠償すべき損害額には、請負人の逸失利益(契約が解除されなければ得られたはずの利益)も含まれるのが原則です。
契約不適合による解除では、不適合を知ってから原則1年以内の通知が必要である
発注した建物が契約に適合していない場合、その不具合の程度が軽微とはいえない場合には、契約不適合責任による契約解除の対象となります。
契約不適合により解除しようとする場合、発注者はその不適合を知った時から1年以内に不適合があることを請負人に通知しなければならず、この期間内に通知しなければ契約不適合を理由とする解除はできなくなります(同637条1項)。
ただし、請負人がその不適合を知ったうえで引き渡した場合などには、この期間制限は適用されません。
原則として、契約書の規定が法律の規定に優先する
発注者が工事請負契約を解除しようとする場合、法令のみならず、契約書も確認すべきです。なぜなら、契約書で法令とは異なる定めがされている場合、強行法規に反しない限り、原則として契約書の規定が優先されるためです。
工事請負契約の解除や損害賠償請求でお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。
請負人から工事請負契約を解除する場合の注意点
請負人の方から工事請負契約を解除しようとする場合は、どのような点に注意すべきなのでしょうか?ここでは、主な注意点を3つ解説します。
- 注文者に問題がない場合には解除できない
- 原則として催告が必要である
- 完成部分の割合に応じ、請負代金の支払いを請求できる
注文者に問題がない場合には解除できない
注文者側からの解除とは異なり、請負人から解除するには次のいずれかに該当する必要があります。
- 注文者側に軽微とは言えない契約違反があり、催告しても是正されない(同541条)
- 注文者が破産手続開始の決定を受けた(同642条)
これら以外の理由で解除するには注文者との合意が必要であり、請負人から一方的に解除することはできません。
原則として催告が必要である
請負人側から契約を解除するには、原則として催告が必要です。
ただし、たとえば請負契約の履行に不可欠な書面を提出しないまま長期に渡って音信不通となったなど、「催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかである」など一定の場合は、例外的に催告することなく解除ができます。
解除に先立つ催告の要否の判断でお悩みの際は、アクセルサーブ法律事務所までご相談ください。
完成部分の割合に応じ、請負代金の支払いを請求できる
請負人から契約解除をする場合も、注文者側からの解除である場合と同じく、完成部分に応じた請負代金の支払いを請求できます。
とはいえ、実際には「完成している一部分に対応する請負代金をいくらとするのが適当なのか」について争いが生じる可能性が高いでしょう。そこで、契約書で中途解約時の報酬の算定方法について定めておくことで、このような争いを避けやすくなります。
請負契約の解除や損害賠償請求について弁護士に依頼するメリット
工事請負契約の解除や損害賠償請求をしようとする際は、弁護士のサポートを受けるのがおすすめです。ここでは、弁護士にサポートを受ける主なメリットを4つ解説します。
- そのケースにおける解除の可否が把握できる
- 具体的な事案に応じた適正な損害賠償請求が可能となる
- 本業への影響を最小限に抑えられる
- 再発防止策についてもアドバイスが受けられる
工事請負契約の解除や損害賠償請求について相談できる弁護士をお探しの際は、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご連絡ください。
そのケースにおける解除の可否が把握できる
1つ目は、そのケースにおける解除の可否が把握しやすくなることです。
先ほど解説したように、解除の可否は状況によって異なるうえ、判断を誤れば相手方から損害賠償請求がなされるリスクがあります。解除をしたいと考えていても、想定されるリスクが未知数であれば、二の足を踏んでしまうことでしょう。
弁護士に相談することで、そのケースにおける解除の可否や解除した場合に生じるリスクなどが明確となり、解除する方向で進めるか否かの判断がしやすくなります。
具体的な事案に応じた適正な損害賠償請求が可能となる
2つ目は、具体的な事案に応じた適正な損害賠償請求が実現できることです。
解除と併せて損害賠償請求ができる場合もあるものの、損害賠償請求の適正額は事案によって大きく変動します。仮に目安となる額よりも少額の請求をしてしまうと、後からの増額は困難でしょう。反対に、目安となる額に対して実際の請求額が法外なほど高額であれば、相手方が納得せず交渉が長引く恐れもあるでしょう。
弁護士にサポートを受けることで、その事案に応じた適正な損害賠償請求が実現しやすくなります。
本業への影響を最小限に抑えられる
3つ目は、本業への影響を最小限に抑えやすくなることです。
工事請負契約の解除や損害賠償請求では検討すべき点も多く、自社だけで進めようとすれば多大な労力を要するでしょう。トラブル対応にリソースを投じた結果、本業に支障が生じれば本末転倒です。
弁護士に依頼することで、相手方との交渉ややり取り、仮に訴訟に発展した場合の手続きなどの多くを弁護士に任せられるため、自社の負担の軽減につながります。
再発防止策についてもアドバイスが受けられる
4つ目は、再発防止策についてもアドバイスを受けられることです。
工事請負契約に関するトラブルは、契約書に定める規定の工夫によって軽減できます。また、契約書に的確な定めを置くことで、万が一トラブルが生じた際の解除や損害賠償請求をスムーズとすることも可能となります。
弁護士にサポートを依頼する場合、必要に応じて再発防止策などのアドバイスを受けることも可能となり、的確な再発予防策を講じやすくなります。
請負契約の解除や損害賠償請求に関するよくある質問
続いて、請負契約の解除と損害賠償請求に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
工事請負契約の解除と損害賠償請求は両方できる?
相手方の契約違反などが原因で工事請負契約を解除する場合、自社に損害が生じているのであれば、解除と併せて損害賠償請求をすることも可能です。
損害賠償請求の可否や適正な請求額などは事案によって異なるため、まずはアクセルサーブ法律事務所にご相談ください。
請負契約の解除は口頭でも良い?
工事請負契約の解除通知の方法や解除前の催告方法について法律上の規定はないため、口頭でも可能です。ただし、契約書で「書面で行う」など法令とは異なる定めがある場合には、原則として契約書の定めに従います。
また、実務上は、可能な限り口頭ではなく、書面で行うべきでしょう。口頭では証拠が残りづらく、「言った・言わない」などのトラブルに発展しやすいためです。
工事請負契約の解除や損害賠償請求でお困りの際はアクセルサーブ法律事務所へご相談ください
工事請負契約の解除や損害賠償請求でお困りの際は、アクセルサーブ法律事務所へご相談ください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。
- 建築・不動産業界に強い
- 実践的なアドバイスを得意としている
- 予防法務に力を入れている
建築・不動産業界に強い
アクセルサーブ法律事務所は、建築・不動産業界に特化しています。業界の取引慣例や業界内で起こりやすいトラブル、関連する判例・裁判例などを熟知しているため、より的確なリーガルサポートが実現できます。
実践的なアドバイスを得意としている
アクセルサーブ法律事務所は法律上の正しさだけに着目した「机上の空論」ではなく、法律の規定は遵守しつつも、より実践的なアドバイスを提供しています。
「法律上はこうなっている」と突き放すのではなく、お客様の想いや感情に寄り添い、「どのような会社・組織をつくりたいか」、「従業員・メンバーのみなさんとどのような関係性を創りたいのか」などのビジョンを大事にしながら、「人間性」にも重きを置いた実践的なサポートを心がけています。
予防法務に力を入れている
弁護士に対して「トラブルが起きた時に相談する人」と考えている人も多いようです。しかし、事前に適切な対策を講じることで、防げるトラブルも少なくありません。
当事務所は「助け合い、称え合い、共に成長し、喜び合う―それが当たり前の世界を創る」ことを最終的なゴールに見据え、トラブル発生後の対応のみならず、トラブルを生じさせないための予防法務にも力を入れています。
まとめ
工事請負契約の解除や損害賠償請求について解説しました。
相手方の契約違反を理由として工事請負契約を解除する場合、これと併せて損害賠償請求ができる場合もあります。一方で、相手方に重大な契約違反がないにもかかわらず自社の都合で契約を解除する場合、相手方から損害賠償請求をされる可能性が高いでしょう。
工事請負契約の解除はトラブルとなりやすいため、特に慎重に進めなければなりません。工事請負契約の解除をご検討の際は、独断で進めるのではなく、まず弁護士にご相談ください。
アクセルサーブ法律事務所は建築・不動産業界に特化しており、工事請負契約の解除や損害賠償請求についても豊富なサポート実績を有しています。工事請負契約の解除や損害賠償請求をしたいとお考えの際や、工事請負契約の解除や損害賠償請求がされて対応にお困りの際などには、アクセルサーブ法律事務所までお気軽にご相談ください。


